
毎朝早くから腕には真鍮製の肘当てをし、右手に革製の手皮をしてどっかりと胡座を組んで座り込み、ひたすらに畳を作る。まずは表の張り具合とイ草の筋目を確かめながら、平刺しを細かく丁寧に縫っていく。手の肘でぐりぐり力を入れながら、
時には足の踵をつかい、手足の感触でムラ無く丹念に糸を締め上げる。次角に取りかかると、しっかりと厚みにムラができないように、木槌でトントンと叩きながら、時々口に水を含んでイ草に吹きかけながら慣れた手付きで形を整えていく。
一針ひと針に心を込めて、ごまかしのない仕事ぶりに、一生を託す気になったと、結婚35年という奥さんが職人のご主人を語る。昔のこと、親が決める奉公先に、手先の細かい仕事が好きだった松葉さんは、畳職人を選んだ。
「大工さんになりたかったのですが、身体が小さかったのです。それならばと畳職人を選んだのですが、当時は畳を運ぶのにも、手がやっと届く程度で苦労しました。機械のない時代ですから、わらで床を作るところから全て手作業、身体で覚えてきました。」
全て手作業の時代は、一日精一杯働いて6枚が限度という、畳作りは大変な作業なのだ。現在は機械化され、作業も早くなったものの、やはり手作業で畳を知り尽くしている職人ならではのカンやコツもある。この手作業での畳が作れる職人だけが、労働大臣認定の1級技能士として認められ、松葉さんもそのひとりだ。
「現在でもお寺さんの畳など、特殊な仕事は手作業でしかできません。とはいえ、そんな仕事がしょっちゅうあるわけでなく、私も修業時代に親方に教えてもらったことは無かったですね。しかし、モノを見ればどんな作り方をしているかわかる。本や資料が最近では出ていますが、やはり手作業を知っていることでわかることがあるんです。」
職人につきものの後継者だが、8年前頼もしい助っ人が現れた。経理事務所に勤めていた息子さんが、跡を継いだのだ。あくまでも親方と弟子、仕事は教えてもらうより、見て覚えるものと厳しい。
「教えるのではこちらも我がでてしまう。こういう仕事はこうするんだと、自分で見て、覚えていかなくては技術は身につきません。今は二人でやっているからいいが、一人で仕事をすることになった時がよほど大変でしょう。」
家族も認める頑固な親方ぶりの松葉さんなのだ。しかし、寺の畳など特殊な仕事では、作ったものを全て保管しているそう。
「これを見れば、作り方がわかるでしょう。息子も親父がどんな作業をしているか、毎日見ていればわかるはずです。」
台風23号の被害を受けた方からの注文でこの日も仕事に追われる松葉さん。職人にはこのくらいの事しか…と思い、一日でも早く、良い香りの畳で寛いでもらいたいと、作業も日が暮れるまで続く。多くを語らなくても見ればわかる。それは、清々しい香りの畳からも伝わってくるようだ。
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