
日本人が昔から親しんできた豆腐。水と大豆だけで作る豆腐は、その素材のシンプルさゆえに、ごまかしがきかない仕事だと言う。下呂市萩原町にある戸谷豆腐店は創業114年、社長の戸谷成樹さんで4代目という老舗だ。
「昔から小売りはほとんどなく、旅館や料亭、商店に卸すものが中心でした。近年、食生活が変化し、おせち料理でさえも煮物中心では無くなってきていますよね。従来通りの豆腐や厚揚げ、こも豆腐だけを作っていてはいけないと、13年前よりくみあげ湯葉や、懐石料理でお出しする葛を使った豆腐も作りはじめました。」
ひっきりなしに湯気が上がる工場も、冬ともなれば大変な水仕事だ。湯葉づくりは、船と呼ばれる大きな槽に豆乳をはり、それを湯せんで温めていく。くみあげ湯葉は、最初にとれるごく薄い絹のような膜で、繊細な味わいが身上だ。
「業界ではスチームで豆乳を温める方法が主流になってきていますが、ウチでは湯せんで温めています。こうすると温度の伝わり方が優しく、湯葉にコシがでるんです。」
と戸谷さん。原料には富山産のエンレイという良質なタンパク質が多い大豆を使い、大豆の旨味を十分に引き出して作られる。くみあげ湯葉のあとには、引き上げ湯葉がつくられ、時間がたつほど甘味とコクを増した豆乳の味わいとなる。こちらは鍋物や寿司ネタで旨味を楽しむのだ。懐石料理に使う、葛を使った豆腐もここで作られる。
「季節に応じて、今ならぎんなんを入れた銀杏豆腐や飛騨の食材で作るえごま豆腐、夏ならオクラ豆腐などを作っています。吉野の本葛を使い、豆乳を入れて作るオリジナルがほとんどですね。板前の友人から作り方を習い、あとは試行錯誤して作り上げてきました。」
旅館や料亭からのオーダーで作られる豆腐は、専用の流し缶で届けられる。
「始めた頃は流し缶も数個だけを作っていました。現在は製品総数で1日あたり3,300食を作っています。板前さんの口コミでお客様が増えたのも、素材に本物を使い、手作りで化学調味料や添加物を使わない味が喜ばれたからだと思います。お店1軒1軒、板前さんの要望する味になるよう、同じ商品でも味を変え、すべてオーダーで対応しています。」
オーダーでのもの作りは、選ばれなくては続かない。
「配達に伺った時、仲居さんから、戸谷さんのお豆腐は評判がいいですよ、ほとんどのお客様が残されないですから、と言っていただくと本当に嬉しかったですね。一生懸命作ったものは、おいしく召し上がってもらいたい。そんな板前さんと同じ思いで仕事をしています。」
とろける食感のえごま豆腐は、大変な力で練り上げる作業から生まれる。この練りが足りないと、なめらかな口当たりにならないのだ。自然のままの豊かな味わい。ほんのりとした大豆の風味を楽しむ豆腐だからこそ、素材と手間に正直に向かい合うことから、その澄んだ味わいが生まれてくるのだろう。
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