
「おかげさまで、開店して17年目を迎え、常連さんや遠方からのお客様も増えてきました。ご年配の方から、若い女性のグループ、カップルもご来店下さるのが何より嬉しいですね。」
と穏やかな口調の女将、中村文子さん。腰を落ち着け、のんびりとした時間を過していただきたいと心を砕く主人と女将の想いは、安心感となって店内を満たす。
「主人は妥協をしない職人ですので、自分のできる範囲の店で納得のいく仕事がしたいと、間口二間足らずのこぢんまりとした店ですが、ここへ来てほっとしていただければ何よりだと思っているんです。」
京都で修業し、高山の老舗旅館で腕をふるった主人が、自分の店をと言い出した時は戸惑ったそう。
「接客などをしたこともありませんでしたし、最初は反対していました。でも、男の人には夢があるものですね。結婚したからには、この人についていくしかないと思って。(笑) 主人からは、そのまま普通の接し方をしてくれたら良い、と言われました。一緒に仕事を始めてからは、お客様が喜んでくださる笑顔が何よりの栄養ドリンクとなり、私達も幸せを感じて仕事をさせていただいています。私自身は何もできないけれど、体力と笑顔だけですね。」
と明るい女将に支えられてこそ、主人は包丁に集中できるのだろう。京料理がベースとなり、素材は地のものや全国から選りすぐりを取り寄せることも。
「高山は飛騨牛や富山からの新鮮な魚介類なども美味しいですし、四季折々ほんとうに素材には恵まれた土地だなぁと実感しています。これからの季節は鮎や夏野菜なども美味しいですね。夏はつめたく冷やしたお料理も美味しいですが、そんな中にほっとする温かいお料理をお出ししたりと、いろんなものを少しずつ楽しんでいただきたいと思っています。」
年に2、3度訪れる女性グループは、自分達が頑張ったご褒美に、ここへくる時間を楽しみにしているんですよ、と語った。
「私達こそそんなお客様の言葉に励まされて、生かしていただいているんですね。時には絵手紙をいただいたり、いろんなお客様とのふれ合いが、17年間の宝だと思うようになりました。家族や長年勤めて下さる人、そんな「人」のお陰でやっていけるんだと。私達も老後はのんびり、という生活に憧れない訳ではありませんが、こうして色んなお客様と毎日接しながら終われたらいいな、と今は主人とも話しています。」
時には厳しい主人と、大忙しの厨房の中ではけんかもしますよ、と女将。
「でも、二人の目標はお客様に満足していただくことなんです。片方だけでは成り立たないことですね。一つの目標を持っているからこそ、協力していけるのだと思います。」
オープンより17年間、確実に築かれてきたお客様との信頼関係は、空間に、料理に表れた二人の真心の賜物だ。 |