奥飛騨温泉郷のなかでも、山里の素朴さとありのままの自然が残る新平湯温泉。「建治旅館」はそんな心和むくつろぎを大切にした一軒宿だ。
「13年前、家族ではじめた宿ですが、女将の気さくで温かい人柄と家族的な雰囲気を大切に、精一杯のおもてなしにつとめてきました。いろんなお客様にもお越しいただけるようになり、常連のお客様も増えてきました。そこで、せっかくお越しいただくのだから、玄関にたった時から旅の期待感がふくらむようにと、この1月玄関、ロビーをリニューアルし、また客室も壁をきれいに改修したんです。」
客室7室のこぢんまりとした宿ながら、アグネス・チャンさんや俳優の唐沢寿明さん、ノーベル物理学賞の小柴昌俊教授なども静養に訪れたという隠れ宿である。
「ここは静かですし、春は山桜、夏の清涼な空気、秋の紅葉と自然はきれいなところです。小さな宿ですがお客様同士が館内でお顔を合わせることもあまりなく、賑やかな宴会客もいませんから、ゆったりと過ごしていただけるのではないでしょうか?」
かつての団体旅行から、家族や仲間とののんびりした寛ぎを求める人が増えてきた今、小さな宿の静けさが喜ばれているのだろう。
「お料理も、この規模ですから家族や近所の方が採ってきた山菜やこけ、天然の川魚をお出しすることができます。基本的に海のものよりも地元で取れたものでおもてなしをしたいと思っているんですよ。」
15名以上なら高山や近郊までバスでの送迎もあり、宿泊はもちろん、食事だけでも楽しめることからリピーターには地元客もいる。荒井さんは、少年時代から天然記念物の尾長鶏などを飼育し、中には日本一の栄冠に輝いた鶏もいる。今では8種120羽以上の鶏を飼育しているそう。
「疲れていても鶏小屋にいると和むんです。旅館を始めた13年前からは奥飛騨の地鶏をつくりお客様に召し上がっていただこうと友人と取り組み、3年前にようやく奥飛騨シャモ、奥飛騨地鶏と玉子用の飛騨錦という鶏が完成しました。旅館でも地鶏料理に、お吸い物や茶碗蒸しのだしに、また茶碗蒸しには栄養価の高い烏骨鶏の玉子を使うなど喜んでいただいています。」
奥飛騨シャモは運動量が多い分、身が締まり抜群の歯ごたえとうま味がある。飼料にも気を配りのびのびと健康的に育てられた鶏は、有名ラーメン店の店主が「この鶏ガラをわけて欲しい」と足を運ばれたこともあった。
「宿泊客だけが口にできる僅かな数ですからこだわって育てています。玉子だけでも送ってほしいと言われるお客様もいて、自信がついてきましたね。家族が精一杯、おもてなしをすることができる規模で本当に良かったと思っています。」
ご馳走というのは、文字通り、そのお客様のためにあちこちを駆け回って野菜や魚を集め、精一杯のおもてなしをするという意味である。そんな気持ちが伝わり、温かい情に触れることこそ、何よりの癒しになるのかも知れない。 |