▲享保びな 享保(1716〜1736年)頃につくられた。めびなの十二ひとえの衣は綿がたくさん入り、ふかふかしている。
▲怒りじょうご。笑いじょうご。泣きじょうご。とてもユニークな表情の三仕丁。(さんしてい)とは、ひな段の一番下に並ぶ役所の雑役夫。
▲自家製のわらびもち。 きな粉がたっぷりかかっている。器もすてきなものばかり。
高山市内の下一之町にある布久庵は、明治29年より創業100年におよぶ杉久呉服店の母屋の一角を利用し、開店して4年ほどのまだ新しいお店。店内は中庭を眺められるテーブル席と座敷があり、歴史ある町屋造りのなかで、お抹茶、くずきりなどが味わえる。 そして3月始めから4月3日の高山の旧ひな祭りまでの時期、店内には数組の雛様が飾られ「雛の家」のように華やかさを増す。一番古いもので江戸時代300年前の享保雛がある。耳や指が少し欠けたりしているだけで、目は切れ長でおちょぼ口の顔は、凛とした表情を持ち、その当時の気品を今も漂わせている。 この享保雛は近所の骨董収集家である小林修二さんが「ひな様がここに来たがっとる」と、数点の古い人形と一緒に持ち込んでから毎年ここに飾られるという。「親から目のついたものは、毎年出すように」と言われ、時期が来ると気になってと話してくれる、店主の杉山陽子さんの娘へ贈った平成元年の雛様も並ぶ。 江戸時代から現代までの雛たちが歴史ある商家に集まり、日本画、屏風などがある座敷の中で、自分の居場所をえたように雛様は穏やかな表情をしている。 店主である陽子さんは子供時代に日本舞踊をならい、現在は茶道の季節感を大切にし、器、掛け軸、花などにも心を配りお客様のおもてなしをする。そんな心落ち着けるお店に雛たちが「ここに来たがっとる」と思えてならない。歴史の移り変わりを見てきた雛様は、座敷でコーヒーを飲みながらおしゃべりをする恋人同士を優しく見守っているようだった。